熱雑音の導出

A:抵抗の熱雑音のパワースペクトル密度は 4kTR っていいますけど,導出についての論文を見ると2つの抵抗を伝送線路で接続している系を考えるみたいなんです.なんで伝送線路が急に登場するのかがわからなくて,そこから先が頭に入ってこないんです.

B:確かに唐突な印象がありますね.でも,伝送線路はエネルギーを考えるのに結構都合がいいんですよ.

A:というと?

B:理由は2つあります.1つ目は,伝送線路の両端を終端されているときに伝送線路に閉じ込められているエネルギーが,定在波の数から計算できることです.

A:確かに,論文では伝送線路に抵抗をつないだ状態から,急に抵抗を切り離して伝送線路を終端するようなことが書いてありました.

B:両方が固定端になるので,定在波のモードがわかりますね.

A:周波数間隔が一定になるやつですね.伝送線路をエネルギーが伝搬するのにかかる時間を \tauとすると,周波数間隔 \frac{1}{2\tau} で定在波のモードが存在することになる,であってます?

B:正解.それを伝送線路の自由度とみると,エネルギー等分配則(1自由度当たりのエネルギーが \frac{kT}{2})から,伝送線路に閉じ込められるエネルギーは全部で 4\tau (f_1-f_0) \frac{kT}{2}と分かります.

A:f_1f_0 は,対象とする周波数の上端と下端ですね.で,定在波のモード数を自由度とみるわけだ.でも,2倍大きい気がするんですが.

B:一つの周波数で,磁界と電界の2自由度があるので2倍するみたいです.

A:みたい?

B:そこはよくわからないです.それはおいといて,もう一つの理由にいきましょう.2つ目の理由は,検討対象のエネルギーを伝送線路内に通せるってことです.

A:?

B:ある抵抗があって,その一方が接地されていて,他方が伝送線路を介して別の抵抗で終端されている系を考えてみてください.2つの抵抗と伝送線路の特性インピーダンスが一致していれば,熱雑音電圧の半分,つまり熱雑音電力の 1/4 が伝送線路を通って反対側の抵抗に向かっていくことになります.その状態で伝送線路を切り離すと,熱雑音電力が伝送線路に閉じ込められますよね?

A:なるほど,伝送線路に閉じ込めてしまいさえすれば,1つ目の話に近づきそうです.でも,こっちは熱雑音「電力」で,さっきはエネルギーだったので,次元が合いませんよ.時間積分が必要ですがどうするんですか?

B:伝送線路をエネルギーが伝搬する時間 \tau を使います.定常状態では電力は時刻によらず一定なので,電力に \tau をかければエネルギーにできます.式にしてみましょう.

A:えっと,熱雑音パワースペクトルSn(f) とすると,これをさっきと同じ周波数範囲で積分するので,伝送線路を通る熱雑音のエネルギーは \tau\frac{1}{4R}\int^{f_1}_{f_0}Sn(f)df ですか?

B:惜しい.抵抗が2つあって,双方から同じだけ無相関な熱雑音電力が伝送線路に入ってくるので,その2倍になります. 2\tau\frac{1}{4R}\int^{f_1}_{f_0}Sn(f)df ですね.

A:また2倍か・・・.

B:まぁまぁ.で,1つ目と2つ目が等しいはずだから, 4\tau (f_1-f_0) \frac{kT}{2} = 2\tau\frac{1}{4R}\int^{f_1}_{f_0}Sn(f)df となります.もうすぐゴールです.

A:f_0 = 0 でもいいわけだから, 4\tau f_1 \frac{kT}{2} = 2\frac{1}{4R}\int^{f_1}_{0}Sn(f)df.さらに,両辺をf_1微分すると, \tau kT = \frac{1}{4R}Sn(f) となって,整理すると...  Sn(f) = 4kTR !!

B:めでたしめでたし.

A:伝送線路を持ち込んだ発想がすごいですね・・・.

B:本当にそうですね.実は,偉そうしてましたが California Institute of Technology の講義動画 がとても分かりやすくて,その受け売りなんです.ありがたいですね.